マンションの価格は下がることはないの?

第5回: その物件は「期待」に支えられすぎていないか

目次

皆さん、こんにちは。
株式会社property technologiesが設立した不動産テック研究・開発組織 『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』所長の清水千弘です。

 

前回(第4回)までで、あなたの頭の中には見取り図ができました。住宅価格が動くのは、家賃だけではなく、金利(割引率)と期待で大きく変わる。そして「高騰」は、家賃が上がったというより、ユーザーコストが軽く見える方向に動き、買う人が増えて価格が押し上げられる局面で起きやすい。

 

【関連記事】マンションの価格は下がることはないの?(第4回:住宅は投資なのか、それとも生活なのか)

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では、いよいよ核心に入ります。
あなたがいま検討しているこの物件は、「期待」に支えられすぎていないでしょうか。

 

“必要な期待”を見える化する:家賃・ユーザーコスト・売却の三点検

ここで言う「期待に支えられすぎ」とは、乱暴に言えば、現実の家賃や保有コストだけでは説明しにくい価格になっていて、その差を“将来の値上がり”や“都合の良い売却”で埋めている状態です。値上がりが起きれば問題は表に出ません。でも期待が少しでも揺らぐと、あなたの想定していた出口(売却)や家計の余裕が、急に苦しくなります。第2回で見た「数百万円単位の振れ」は、まさにその形で現れます。

 

では、どうやって見抜くのか。
コツは一つです。

 

「この価格を正当化するために、どんな期待が必要なのか」
それを『見える化』する。

 

今日は、そのための三点検を紹介します。

①家賃との距離(ユーザーコスト)
②売却の必要条件(簡易DCF)
③売れる前提の質(期待の中身)
の3つです。

点検①:家賃との距離を測る(ユーザーコストで“必要な期待”を逆算する)

 

第3回で、住宅には二つの価格があると言いました。
「住む価格=家賃」と「持つ価格=ユーザーコスト」です。
ベンチマークでは両者は一致します。ここが第一の点検ポイントです。

清水先生
清水先生
あなたが検討している物件について、まずは“いま”の条件で、ざっくりとユーザーコストを置いてみましょう。細かい税制は後で足せます。ここでは骨格だけで十分です。

ユーザーコスト率(ざっくり) = 金利(資金コスト) + 維持費(管理・税) + 減価(劣化) − 期待値上がり率
清水先生
清水先生
この式が意味するのは、「金利が低いほど」「値上がり期待が強いほど」持つ負担は軽く見える、ということでした。ここで便利なのが、“逆算”です。
つまり、あなたが今見ている価格を、家賃と釣り合わせるには、どれくらいの値上がり期待が必要なのかを計算してしまうのです。さて、ここまでで何か質問はありますか?
はい、質問です。その『逆算する』というのが少しイメージしづらいのですが、具体的にどうやって計算するのでしょうか?
生徒くん
生徒くん
清水先生
清水先生
では、具体的な数字を当てはめて解説しましょう。

 

たとえば、あなたが検討しているマンションの価格が 6,000万円、同じ条件で賃貸に住むなら家賃は月 18万円(年216万円)だとしましょう。維持費+税+保険などを年1%、減価(劣化)を年1%、資金コスト(金利)を年2%と置きます(合計4%)。すると、値上がり期待がゼロなら、ユーザーコストは年4%×6,000万円=年240万円、月にすると20万円です。家賃18万円より少し高い。ここまでは直感と近いと思います。

 

では、この差(20万円−18万円=2万円)を埋めるには、どれくらい値上がり期待が必要でしょうか。年240万円のユーザーコストから、年216万円まで下げる必要があります。差は年24万円。6,000万円の24万円は0.4%です。つまり、「家賃18万円と釣り合うには、年0.4%くらいの値上がりが必要」という逆算になります。

 

ここで大切なのは、0.4%が正しいかどうかではありません。この価格は、年0.4%程度の値上がり期待を前提にして“成立している”、という事実が見えることです。あなたはこの前提に同意できますか?同意できる根拠は何ですか?もし同意できないなら、この物件は「期待に寄りかかっている度合い」が高い、ということになります。

 

さらに、同じ計算を「金利が1%上がった世界」で考えてみます。資金コストが2%→3%になると、合計は5%になります。すると、家賃と釣り合うのに必要な値上がり期待は 0.4%+1%=1.4% に増えます。つまり、金利が上がると、同じ物件でも「必要な期待」が一段重くなります。

 

これが第2回で扱った金利リスクの核心です。金利が上がると、住宅は「持つ負担」が増えます。その負担を相殺するには、より強い値上がり期待が必要になる。期待のハードルが上がるのです。期待のハードルが上がった瞬間に、「買う理由」が薄くなる人が増え、価格が弱くなりやすい。ここまでが、点検①の狙いです。

この物件が成立するために必要な値上がり期待(%)を、あなたは言えますか?
言えないなら、それは“期待に飲まれている”サインです。言えるなら、あなたはすでに一段冷静です。

 

【関連記事】マンションの価格は下がることはないの?(第2回:家を持つことのリスクを考える)

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点検②:売却の必要条件を出す(簡易DCFで“出口の難しさ”を見える化する)

 

点検②は出口、つまり売却です。多くの人は「住み替えはまだ先」と思います。でも現実には、転勤、家族構成の変化、親の介護、子どもの進学などで、10年単位で売却を考えることは珍しくありません。出口の条件が弱いと、期待が崩れたときに一番つらい形で表面化します。
ここではDCFを“教育用”に、できるだけ簡単な形にします。発想はこうです。

 

「この価格で買って、何年住むとすると、将来いくらで売れれば“だいたい釣り合う”のか」

 

たとえば、あなたが 8,000万円のマンションを検討していて、同等の賃貸に住むなら家賃は月 25万円(年300万円)だとします。あなたは10年住むつもりだとしましょう。ここで、家を買うことによって得る“住む便益”は、単純化すると「家賃を払わなくて済む」ことです(本当は持ち家にも管理費などがあるので後で調整しますが、まず骨格だけ)。

 

割引率を年2%とすると、10年間の「家賃300万円」を現在価値に直した合計は、およそ 300万円×8.98=2,694万円程度です。つまり、あなたは10年間で、現在価値で約2,700万円ぶんの住まいサービスを受け取る。
残りは何か。残りは売却で回収する必要があります。

 

8,000万円−2,694万円=約5,306万円。これが「売却代金の現在価値」として必要な金額です。
10年後のお金は割り引かれるので、10年後の売却価格に戻すと、
約5,306万円×(1.02)^10 ≒ 5,306万円×1.219 ≒ 6,470万円です。

清水先生
清水先生
つまりこの単純化した計算が言うのは、「この家を8,000万円で買い、10年住むなら、10年後に約6,470万円で売れれば、ざっくり釣り合う」ということです。
ここに、維持費・税・修繕・仲介手数料などを入れると、必要売却価格はもう少し上がります。
逆に、家賃が上がるなら下がることもあります。ただ、ここでの目的は細部の精密さではなく、出口の要求水準を見える化することです。

 

あなたはこの「10年後6,470万円」という水準をどう感じますか。「十分あり得る」と思うなら、その根拠は何ですか。「難しそうだ」と思うなら、その理由は何ですか。この問いに答えられるかどうかが、点検②です。

 

そして、ここでも「金利1%上昇」の世界を置くと、必要売却価格のハードルが上がります。割引率が3%になると、将来の売却代金の現在価値は小さく評価されるため、より高い売却価格が必要になる。つまり、金利は出口にも効くのです。第2回の“ダブルパンチ”の話がここでつながります。

点検③:「売れる前提」の質を確かめる(期待の根拠を問い直す)

 

清水先生
清水先生
点検①と②で、必要な期待が数値として見えるようになります。ここで最後にやるべきは、期待の中身の検品です。期待には「質」があります。
期待の質、ですか?
生徒くん
生徒くん
清水先生
清水先生
ええ。危ない期待は、こういう形です。
「最近上がっているから、きっと上がる」「みんなが買っているから、自分も」「不動産は結局強いらしい」――これは“期待の根拠”が、過去の値動きに寄りかかっています。相場の上ではよくあることですが、期待が崩れるときには、こういう期待ほど脆いです。
清水先生
清水先生
一方で比較的質の高い期待は、「条件の変化」に根拠があります。
たとえば、交通利便の改善、実需(暮らしたい人)の厚み、周辺の供給制約、建物管理の良さ、将来も選ばれやすい間取り・立地などです。これらは未来の不確実性をゼロにはしませんが、「売りやすさ」を支える要素になりやすいです。

あなたがこの物件を「10年後にも売れる」と思うなら、次の問いに答えてみてください。
  ▢ 10年後の買い手は誰か?(どんな家族像/単身/シニア/投資家…)
  ▢ その買い手は何を重視するか?(駅距離、広さ、学区、管理、災害、眺望…)
  ▢ この物件はそれに応えるか?
  ▢ 建物は10年分“古くなる”が、それでも魅力が残るか?
  ▢ 管理と修繕は、魅力を維持できそうか?

 

この問いに言葉で答えられないとき、あなたの期待は“空気”に近い可能性があります。言葉で答えられるとき、期待は少しだけ「検証可能」になります。ここが大きな差です。

まとめ:第5回のゴールは「必要な期待」を言葉にすること

第5回でやったことは、予測ではありません。
「この価格を成立させるために必要な期待」を見える化し、その期待にあなたが同意できるかを確かめる、という作業でした。

 

点検①で、家賃とユーザーコストから「必要な値上がり期待」を逆算する。
点検②で、簡易DCFから「必要な売却条件」を見える化する。
点検③で、その期待の“根拠の質”を言葉で検品する。

 

ここまでできれば、あなたはもう「相場の空気」だけでは動かされません。

 

次回(第6回)は、この分析を踏まえて、最後の一歩――
“住む価値”としての納得と、“投資リスク”の許容をどう両立させるのかを、あなたの行動に落とし込む回です。ここで連載は、判断の形になります。

 

次回も、ぜひ一緒に考えていきましょう。お楽しみに。

編集・執筆/PropTech-Lab所長 清水 千弘

清水 千弘

PropTech-Lab所長

一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。

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