マンションの価格は下がることはないの?

第6回:“住む価値”と“投資リスク”をどう両立させるか

目次

皆さん、こんにちは。
株式会社property technologiesが設立した不動産テック研究・開発組織 『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』所長の清水千弘です。

 

前回(第5回)で、あなたは一つの大事な力を手に入れました。「この物件はいくらの期待に支えられているのか」を、数値と言葉で説明できるようになったことです。家賃とユーザーコストのズレを見て、「この価格が成立するには、どれくらいの値上がり(あるいは売却価格)が必要か」を言えるようになった。これは、とても大きい。でも、最後に残る問いがあります。

 

【関連記事】 マンションの価格は下がることはないの?(第5回:その物件は「期待」に支えられすぎていないか)

マンションの価格は下がることはないの?

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後悔しにくい買い方は「最悪の世界でも住めるか」で決まる

「期待に寄りかかっている部分があるとしても、それでも私はこの家に住みたい。この“住む価値”と、投資リスクの許容をどう両立させればいいのか?」
ここが本コラムの中核です。結論から言います。両立のコツは、精神論ではありません。

 

順番と境界線です。

 

なぜ精神論ではダメなのか。それは、住宅購入は気合いで勝てる勝負ではないからです。金利はあなたの都合では動きませんし、市場はあなたの希望どおりにはなりません。転勤、出産、介護、転職、病気といった人生のイベントも、計画どおりにやってきません。
だから、気持ちを強く持つより先に、「崩れない形」を作る必要があります。

 

順番はこうです。

  • (1)住む価値を先に言葉にする
  • (2)投資リスクを後で数字にする
  • (3)最後に「境界線」を決める

この順番を守ると、混ざって事故が起きにくくなります。

はい、先生! その『混ざって事故が起きる』というのは、具体的にどういう状態なんでしょうか?
生徒くん
生徒くん
清水先生
清水先生
いい質問ですね。 混ざって事故が起きる典型は、だいたい次のどちらかです。

  • 投資の言葉で生活を正当化してしまう
     「値上がりしそうだから、多少の不便は我慢する」
      → 期待が外れたとき、“不便だけが残る”
  • 生活の言葉で投資の無理を正当化してしまう
     「住みたいから、多少高くても仕方ない」
      → 金利上昇や売却難で、“家計の余裕が消える”

なるほど……。どちらも、後になってから「しまった」と気付きそうです。
生徒くん
生徒くん
清水先生
清水先生
そうですね。両方とも、後悔の形が似ています。
「分かっていたはずなのに、混ぜてしまった」という後悔です。
今日は、あなたが自分の物件に当てはめられるように、具体的な問いの形に落とし込みます。
読みながら、ぜひメモを取ってください。「ここは言える」「ここは言えない」という差が、そのまま判断の材料になります。

まず「住む価値」を言葉にする:生活の判断を先に切り出す

住む価値は、DCFの式には入りにくい。でも確実にあなたの人生に効く価値です。だから最初に、生活の言葉だけで、住む価値を言語化します。

ここで大事な約束があります。

 

“買う価格”を先に見ないこと。

価格を先に見た瞬間、投資の言葉が混ざりやすくなるからです。まずは「暮らし」だけを取り出します。
問いは単純です。

 

この暮らしのために、私は毎月いくら払っていいか?

ここでの「払う」は、家賃でもローンでも構いません。「住まいサービスへの支払い」として考えます。あなたが買うのは、壁や床ではなく、「生活の質」です。
ただし、多くの人はここで詰まります。理由は簡単で、住む価値は“気分”に見えやすいからです。そこで、問いを二段に分けます。

 

住む価値を「Must」と「Nice」に分ける
絶対に譲れないもの(Must)
例:通勤時間、学区、駅距離、治安、日当たり、静けさ、間取り、階段の有無(将来の生活)、周辺の医療・買い物環境など
あったら嬉しいが妥協できるもの(Nice)
例:眺望、内装グレード、ブランド、共用施設、コンシェルジュ、ディスポーザー、ジムなど

 

この整理ができると、「なぜその物件なのか」が価格と切り離されます。住む価値は“説明できる形”になります。これが第一段階です。

 

ここで、もう一歩だけ深めます。Mustは「暮らしの土台」ですが、実は後悔を減らすのは Mustの中の優先順位です。

たとえば、通勤時間と日当たり、どちらがあなたの人生に効くのか。静けさと広さ、どちらがあなたにとっての回復なのか。ここを自分の言葉で言えると、購入後のブレが小さくなります。

 

最後に、この一文を作ってください。

私は、この家で___を手に入れるために買う。

___には「通勤の短縮」「家族との夕食の時間」「睡眠」「安心」「子どもの環境」「自分の作業スペース」など、具体的な生活の言葉が入るのが理想です。「資産価値」や「値上がり」は、ここには入れません。ここは生活の段階だからです。

 

次に「投資リスク」を数字にする:期待が外れた世界を用意する

清水先生
清水先生
さて、「住む価値」が言語化できたら、次に考えるのは「投資リスク」です。ここで重要なのは、未来を当てにいかないこと。やるのは予測ではなく、「ストレステスト」です。
先生、「ストレステスト」というのは、具体的にどういうことをするんでしょうか?
生徒くん
生徒くん
清水先生
清水先生
ストレステストとは、簡単に言えばこうです。
「都合の良い未来」ではなく、「少し嫌な未来」を先に置いて、それでも壊れないかを確かめます。

なぜこれが重要か――
住宅は流動性が低く、簡単に撤退できないからです。株なら売って逃げられる局面でも、住宅は売れない・時間がかかる・値下げが必要、ということが起きます。だから「逃げられないときに耐えられるか」が、両立の条件になります。

ストレステストの問いは、3つで十分です。

問い①:金利が1%上がったら、家計は耐えられるか?

 

これは第2回の話の延長ですが、「価値が下がる」だけでなく「支払いが増える」可能性も含めて考えます。あなたが変動金利なら特に重要です。

チェックするのは、次の二点です。

 

▢ 返済額が上がっても、生活費・教育費・貯蓄が崩れないか

▢ “一時的に”ではなく“数年”続いても大丈夫か

 

ここでのポイントは、感覚で「大丈夫」と言わないこと。
大丈夫かどうかは、“月の余白”で決まります。余白が薄いと、期待が外れた瞬間に選択肢が消えます。

清水先生
清水先生
たとえば具体例を一つ見てみましょう。

仮にローンが5,000万円、返済期間35年だとします。金利が年0.5%のとき月々返済は約13万円、年1.5%になると約15.3万円、差は約2.3万円です(条件により変わりますが、感覚としてはこのくらいです)。

この「月2〜3万円」を、あなたの家計は吸収できますか?

 

  •  吸収できるなら、金利リスクは“怖いが致命傷ではない”。
  •  吸収できないなら、金利リスクは“あなたの家計にとって致命傷になり得る”

重要なのは、「月2〜3万円」をただの数字として見ないことです。
それは、外食や旅行を減らす程度で済むのか。
子どもの習い事を削ることになるのか。
貯蓄が止まるのか。
あなたの生活の何を削ることになるのか――そこまで具体化して初めて、耐えられるかが判断できます。

問い②:売却価格が想定より20%下がっても、詰まないか?

 

第5回で「必要な売却条件」を見ました。ここでは逆に、最悪に近い世界を置きます。

 

▢ 10年後に売却したいとき、想定より2割安い

▢ あるいは、売れるまで時間がかかり、値下げが必要になる

 

このとき、あなたはどうしますか。
住み続けられますか。売らずに持ち続けられますか。
ここでの鍵は「持ち続けられる体力」です。
住宅は流動性が低いので、相場が悪いときに“身軽に逃げる”のが難しい。だから、両立の条件は「逃げられないときに耐えられるか」です。

 

さらに一歩進めて、問いを二つに分けます。

 

  • 価格が2割下がったとき、精神的に耐えられるか
     住宅は「生活の舞台」なので、含み損が続くとストレスになります。
     「住む価値があるから気にしない」と言えるかどうか。
  • 価格が2割下がったとき、実務的に耐えられるか
     住み替えで売却が必要なとき、売却損が出ても次の住まいに移れるか。
     あるいは「売れないなら賃貸に出す」という選択肢が現実的か。

ここを曖昧にしたまま買うと、期待が崩れたときの動きが遅れます。
遅れると、選べる手段が減ります。住宅のリスクは、だいたい“選択肢が減ること”として現れます。

問い③:想定外コスト(修繕・管理・暮らしの変化)が来ても耐えられるか?

 

持ち家は、見えないコストが後から来ます。

管理費・修繕積立金の上昇、設備更新、家具家電、突発修繕。これらは“確率は高くないがゼロではない”。だから予算に余白を残す必要があります。
ここで大切なのは、「想定外コストをゼロにする」ことではありません。
ゼロにはできません。
大切なのは「来たときに壊れない」ことです。

 

具体的には、次の問いが役立ちます。

▢ 修繕積立金が上がったら、どこを削るか?

▢ 大規模修繕で一時金(臨時徴収)が来たら払えるか?

▢ 家電や内装の更新が重なったら、貯蓄が枯れないか?

▢ 転勤・介護・出産などで家計構造が変わっても、支払いを維持できるか?

 

この3つを通して見たいのは、「この買い方は、期待が外れても壊れないか」という一点です。

最後に「境界線」を決める:両立の設計図は3本の線で作る

清水先生
清水先生
住む価値と投資リスクを両立させるには、あなたの中で“線”を引くことが必要です。おすすめは3本の線です。線を引く、というのは「ルールを決める」ということです。人は迷っているときほど、その場の感情に引っ張られます。だから、物件を見に行く前に、あなたのルールを先に置く。これが本質です。

線①:家計の線(毎月の余白が残るか)

 

あなたの生活費・教育費・貯蓄を壊さない支払い水準を決めます。
ここは「理想」ではなく「最低ライン」で決めます。金利が上がったり収入が減ったりしたときにも耐えるラインです。
ここでのコツは「いくらまで払えるか」を上限で考えるのではなく、
いくら余白が残るべきか
で考えることです。

 

余白とは、貯蓄・緊急費・将来投資(教育・転職・医療)に回せるお金です。
住宅にお金を寄せすぎると、この余白が消えます。
余白が消えると、人生の選択肢が減ります。
両立の第一条件は、余白を守ることです。

線②:流動性の線(売れなくても持てるか)

 

現金の余力、緊急資金、転職・病気・介護などのショックに耐える余力。
持ち家は売って現金化するのに時間がかかります。だから現金の余白は、投資でいうところの“流動性プレミアム”です。

 

ここでのポイントは、「家=資産だから安心」ではないことです。
住宅は資産ですが、すぐ現金にならない資産です。
だから、現金(流動性)は別で持つ必要があります。

 

自分への問いはこうです。

▢ 収入が一時的に落ちても、何ヶ月耐えられるか?

▢ 売れない状態が続いたら、どのくらい粘れるか?

▢ 住み替えが必要になったとき、二重コスト(仮住まい・二重ローン)が発生しても耐えられるか?

 

ここに明確な答えがない場合、購入は「強気すぎる設計」になっている可能性があります。

線③:納得の線(住む価値として言えるか)

 

投資として割高に見える部分があるなら、そこを生活の言葉で説明できるか。
「ここに住むことで、何が良くなるのか」を言えるか。
値上がり期待で正当化していないか。ここが最後の線です。

 

この線は、実は一番大事です。
なぜなら、住宅購入の後悔は、価格が下がったことそのものより、
「値上がりを期待して買ったのに、上がらなかった」
「投資で買ったのに、生活の満足が低い」
という形で心に残りやすいからです。

 

納得の線が引けている人は、こう言えます。
「価格が多少下がっても、この暮らしは手放したくない」
ここまで言えると、期待が揺れたときにも心が折れにくい。
“住む価値”が、あなたの判断の核として機能するからです。

 

3本の線を引いたうえで、物件を見ます。
線の内側に収まるなら買える。収まらないなら、物件を変えるか、価格を下げるか、頭金を増やすか、借り方を変えるか、住む場所を変えるか。
ここまで来ると、判断は“気合い”ではなく“設計”になります。
そして設計とは、勝つためではなく、負けないための工夫です。

決断を支える「最終の問い」:あなたが本当に答えるべき質問

清水先生
清水先生
最後に、契約直前に自分に問うべき質問を置きます。これは強力です。
(ここは、答えが曖昧なまま契約しないでください。曖昧さは、後で必ず形になって戻ってきます。)

1. 価格が2割下がっても、私はこの家に住み続けたいか?
  → 「価格」ではなく「暮らし」に戻って来られるか。あなたの納得の線の確認です。

2. 金利が上がって支払いが増えても、生活は守れるか?
  → 家計の線の確認です。守るべき生活(貯蓄・教育・健康)を削らない設計か。

3. 売りたいときに売れなくても、私は持ち続けられるか?
  → 流動性の線の確認です。住宅は“売りたいときに売れる”とは限りません。

4. 値上がりがなくても、この選択は“生活として”報われるか?
  → 期待に依存していないかの確認です。値上がりがなくても、住む価値で勝てるか。

5. この家を買う理由を、値上がり以外の言葉で説明できるか?
  → 他人への説明ではなく、自分への説明です。迷いが出たときの支えになります。

 

この5つに「はい」と言えるほど、あなたの買い方は強くなります。
逆に言えば、どれかに「いいえ」が残るなら、改善余地があります。これは悪いことではありません。改善できる段階で気づくことが、いちばん価値があるのです。

 

そして大事な補足を一つ。
「全部“はい”と言えないと買ってはいけない」という意味ではありません。
現実の意思決定はトレードオフです。
ただし、“はいと言えない質問”が何かを自覚し、その弱点を埋める工夫(頭金を増やす、価格を下げる、借り方を変える、エリアを変える、買う時期を変える)をした上で買う。ここがプロセスとして重要です。

まとめ:両立とは「期待を捨てる」ことではない。「期待に依存しない」設計にすること

この連載の結論はこうです。
住む価値と投資リスクの両立とは、「期待を捨てる」ことではありません。
期待があってもいい。でも、期待が外れたときに崩れない買い方にする。つまり、期待に依存しない設計にすることです。

 

あなたがこれから買う家は、投資商品ではありません。あなたの生活であり、家族の時間であり、安心であり、毎日の舞台です。だから住む価値は大切にしていい。けれど同時に、資産である以上、リスクから目をそらさない。
この二つを混ぜずに、順番を守って、線を引く。それが、後悔しにくい住宅購入の“型”です。

 

最後に、もう一度タイトルの言葉に戻ります。
後悔しにくい買い方は「最悪の世界でも住めるか」で決まる。
ここで言う「最悪」とは、破滅のことではありません。金利が少し上がる。売却価格が思ったほど伸びない。想定外コストが来る。そういう“少し嫌な未来”が来ても、あなたの生活が守られ、あなたが納得して住み続けられるか。その一点をクリアできたとき、住宅購入は「勝負」ではなく「選択」になります。

 

「マンションの価格は下がることはないの?」——その答えは、もう皆さんの中にあるはずです。価格の予測に振り回されず、揺るがない「準備」を。全6回、最後までお読みいただきありがとうございました。

編集・執筆/PropTech-Lab所長 清水 千弘

清水 千弘

PropTech-Lab所長

一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。

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