皆さん、こんにちは。
株式会社property technologiesが設立した不動産テック研究・開発組織 『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』所長の清水千弘です。
前回(第1回:住宅価格の決まり方)では、住宅価格が「家賃」だけで決まるのではなく、金利(割引率)と、さらにその奥にある人々の「期待」で大きく動く、という話をしました。
そして、DCF(Discounted Cash Flow=割引キャッシュフロー)という考え方を使うと、「このマンションは“いま”いくらの価値があるのか?」を、比較的筋の通った形で整理できることも見てきました。

マンションの価格は下がることはないの?
property technologies が発信するマンションの価格は下がることはないの?のコラムページです。
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ここからが今日のテーマです。
DCFは万能の魔法ではありません。DCFは、計算の「前提(仮定)」にとても敏感です。つまり、前提が少し変わるだけで、「価値」が何百万円単位で動いてしまうのです。これが、家を持つときの大きなリスクの正体です。
今回は、あなたが購入前に必ず押さえておきたい2つのリスクを、数字で「体感」できるように一緒に見ていきます。
▢ 金利(割引率)が1%上がると、投資価値はどれくらい下がるのか?
▢ 10年後に3,000万円で売れなかった場合、価値はどれくらい変わるのか?
(※説明を分かりやすくするため、税金・仲介手数料・管理費・修繕積立金・空室・リフォーム費用などは、ここではいったん置いておきます。現実には大事な要素なので、後で必ず戻ってきます。)
Contents
「金利が1%上がると?」/「3,000万円で売れなかったら?」
まず「基準」のケースを思い出しましょう
あなたが買おうとしているマンションが、仮にこういう条件だとします。
▢ 家賃:月10万円(=年120万円)
▢ 家賃が続く期間:10年
▢ 10年後の売却価格:3,000万円
▢ 割引率:年2%
このとき、DCF法で「いまの価値」を計算するとこうなります。
▢ 家賃10年分の現在価値:約1,078万円
▢ 10年後に3,000万円で売れる価値(現在価値):約2,461万円
▢ 合計(DCFの現在価値):約3,539万円
今回は計算しやすいように、この合計額を「約3,540万円」とし、これを“基準点”にします。ここから前提を動かして、「価値がどれだけ揺れるのか」を見ていきましょう。
金利(割引率)が1%上がると、価値はどれくらい下がる?
まず最初のリスクは、金利(割引率)です。ここで大事なのは、住宅購入で出てくる「金利」には2種類ある、ということです。
- 1. 住宅ローン金利(毎月の返済額に影響する)
- 2. 割引率(将来の家賃や売却価格を「いまの価値」に直すときに使う)
では、割引率が 2% → 3% に上がったら、どうなるでしょう
(つまり「金利が1%上がった世界」を想像してください)
割引率が1%上昇した場合(2% → 3%)
▶2%のとき(基準):価値 約3,540万円
▶3%のとき(1%上昇):価値 約3,256万円
(内訳:計算し直すと、ざっくりこうなります)
▢ 家賃10年分の現在価値:約1,024万円
▢ 10年後3,000万円の現在価値:約2,232万円
▢ 合計(DCFの現在価値):約3,256万円
基準(3,540万円)と比べると、価値は約284万円下がります。(3,540万円 → 3,256万円)
家賃(年120万円)も確かに大事です。でも、「10年後に3,000万円で売れる」という期待は金額が大きく、しかも“遠い未来”の話なので、割引率が上がるとガツンと価値が削られてしまうのです。
ここで一つ、覚えておいてほしい感覚があります。住宅は、金利に弱い資産です。「金利が少し動いただけ」でも、価格(価値)は大きく揺れやすい。
さらに怖いのは、これが「市場価格の話」だけでは終わらないことです。もしあなたが変動金利でローンを組んでいたら、
- 1. 市場価格は下がりやすいのに、
- 2. 毎月のローン返済額は上がりやすいという“ダブルパンチ”を食らう可能性があります。
今回はDCFの枠組みに集中しますが、「金利リスクは、家計(返済)にも資産価値(価格)にも同時に効く」――この点は、購入前に必ず意識しておいてください。
3,000万円で売れなかったら、価値はどれくらい下がる?
ケースA:10年後、2,500万円でしか売れなかった
▶10年後に3,000万円で売れる価値がある(基準): 価値 約3,540万円
▶10年後に2,500万円で売れる価値がある(基準): 価値 約3,129万円
▢ 家賃の現在価値:約1,078万円(ここは同じ)
▢ 売却2,500万円の現在価値:約2,051万円
▢ 合計(DCFの現在価値):約3,129万円
基準(約3,540万円)から見ると、 約411万円下がります。(3,540万円 → 3,129万円)
ケースB:10年後、2,000万円でしか売れなかった
▶10年後に3,000万円で売れる価値がある(基準): 価値 約3,540万円
▶10年後に2,000万円で売れる価値がある(基準): 価値 約2,719万円
▢ 家賃の現在価値:約1,078万円(同じ)
▢ 売却2,000万円の現在価値:約1,641万円
▢ 合計(DCFの現在価値):約2,719万円
基準(約3,540万円)から見ると、 約821万円下がります。(3,540万円 → 2,719万円)
ここで分かる「怖さ」
10年後の売却価格が500万円下がるだけで、現在の価値は約400万円消えます。1,000万円下がれば、現在の価値は約800万円も消えてしまいます。
これが意味するのは、こういうことです。
住宅価格(価値)は、「家賃」の積み上げだけでなく、「最後にいくらで売れるか」という期待に強く支えられているのです。
そして売却価格の期待は、次のような要素で簡単に揺らぎます。
▢ その街の人気が続くか(人口・雇用・再開発)
▢ 周辺で新築供給が増えすぎないか
▢ 建物が古くなったとき、買いたい人がいるか
▢ 管理状態が良いか(修繕・管理組合・トラブル)
▢ 災害リスクや規制の変化はないか
▢ 「マンションは上がる」というムードが続くか
リスクの本質は「前提が動くこと」ではなく「前提に乗りすぎること」
ここまでの数字をまとめると、こう言えます。
▢ 金利(割引率)が1%上昇 → 価値が約280万円下がる
▢ 売却価格が想定より500万円ダウン → 価値が約410万円下がる
▢ 売却価格が想定より1,000万円ダウン → 価値が約820万円下がる
そして現実には、「金利が上がる局面で、不景気になり売却価格の期待も弱くなる」という“同時発生”が起きることがあります。
だから、家を持つことのリスクとは、結局こういうことです。あなたが買うときの価格は、ある前提(低金利・強い期待)の上に立っている。その前提が動けば、価値も動く。
そしてもっと大事なのは、前提が動くこと自体よりも、「前提が動いたときに、あなたが耐えられるかどうか」です。
あなたが購入前にできる、いちばん実用的な「守り方」
たとえば、あなたが検討している物件について、次の3つを計算してみてください。
- 基準シナリオ:いま考えている前提(割引率2%、売却3,000万円など)
- 控えめシナリオ:割引率+1%(=3%)、売却価格-10〜20%
- 厳しめシナリオ:さらに売却価格-20〜30%、想定外コストも少し上乗せ
そのうえで、「控えめシナリオ」になったとしても、
▢ 家計が回る
▢ 住み続けられる
▢ 気持ちが崩れない
なら、その購入決断はかなり強くなります。
次回に向けて:「それでも住む価値としてどう考えるか」
ここまで読むと、少し不安になったかもしれません。でも、怖がらせたいわけではありません。大切なのは、住宅が「資産」である以上、リスクは避けられないという事実を知ったうえで、「それでも買う理由」を自分の中に持つことです。
次回は、ここを丁寧に扱います。
▢ 価格が多少下がっても、「それでもここに住んでよかった」と思える条件は何か?
▢ 「住む価値」をどうやって判断に組み込むのか?
▢ 資産としての目線と、生活としての目線を、どうやって両立させるのか?
数字だけでは決められない。でも、数字を無視すると危ない。そのちょうど真ん中を、あなたの言葉で整理できるようにしていきましょう。次回も、ぜひ一緒に考えていきましょう。お楽しみに。
清水 千弘
PropTech-Lab所長
一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。